この記事を読むメリット
- SAP COにおいて、付替(Distribution)、配賦(Assessment)に使われる「周期(Cycle)」の仕組みと実務的な活用方法を体系的に理解できます
- 各種トランザクションコードや登録・実行の詳細手順、関連テーブルを理解することができます
SAPのCO(管理会計)モジュールで頻出する機能の一つが「配賦」です。
しかし、SAPの中では、配賦と一口に言っても、処理の機能や特徴に応じて、Distribution(付替)やAssessment(配賦)、Periodic Reposting(定期再転記)など似たような用語や処理が存在し、混乱しやすい概念です。
また、SAPではこの配賦を「周期(Cycle)」という設定単位で制御し、月次・四半期などのタイミングで定期的に費用を再配分します。この記事では、それぞれの概念を体系的に整理した上で、特に計画ベースの原価センタ配賦に焦点を当てて、設定・実行・理解すべきマスタやテーブルの構造まで、実務目線で深掘りしていきます。
この記事のポイント
配賦とは?
管理会計上の配賦処理とは、部門共通的に発生した費用について、予め決めたルール(比率)にしたがって、その費用を各個別部門に割り振っていくことを指します。
例えば、メーカー企業において、複数の生産部門が1つの生産拠点内で運営されており、電気・ガス・水道といった水道光熱費、工場全体の減価償却費など部門を跨いで発生する費用があり、そうしたものについては各部門の部門費として一定の比率で配分する必要があります。
配賦処理の種類
SAP標準で用意されている配賦処理の種類には以下があります
- 配賦(Allocation / Assessment Cycle)
- 付替(Distribution Cycle)
- 定期再転記(Periodic Cycle)
配賦と付替の違いは、配分対象が一次原価要素に限定されるかどうかです。
付替は、一次原価要素のみを配賦対象とし、ある原価センタから別のコストオブジェクトへの費用の振り替える処理のことを言います。
一方、配賦は、一次原価要素(会計勘定科目)と二次原価要素(COのみが扱う勘定科目)を配賦対象とし、多段階配賦が可能となっています。
例えば、下記の配賦の例では、部門Aに計上された各一次原価要素を二次原価要素を使用して、部門Aから部門B、C、Dに配分しています。
CO-配賦概要
もっとくわしく💡定期再転記とは
定期再転記は、配賦のように動的な基準でコストを分配するのではなく、定期的に発生する費用を、あらかじめ決められたルールに従って転記する処理です。
定期再転記も、付替と同様に、一次原価要素のみを配賦対象としますが、配分後の伝票明細にセンダ情報(どこから配分されたかという情報)を持たない点が特徴です。センダ情報を持たないことで、データ容量の節約がメリットとして挙げられますが、筆者の経験上、事例としては付替を用いることが多いです。
特徴 \ 配賦処理の種類 | 配賦 | 付替 | 定期再転記 |
---|
配分対象 | 一次・二次原価要素 | 一次原価要素のみ | 一次原価要素のみ |
センダ情報の有無 | あり | あり | なし |
周期とは?
SAPの“周期(Cycle)”とは、原価配賦・転記の自動化・定型化を実現する為のルールをまとめた実行単位です。
周期の概要
SAPで配賦をするうえで、以下のような情報が必要になります。
これらを制御しているのが「周期」です。
No | 説明 | 対象情報 | 周期の設定内容 |
---|
1 | 「何を」 | 給料 | センダ原価要素 |
2 | 「どこから」 | 部門A | センダ原価センタ |
3 | 「どこへ」 | 部門B,C,D | レシーバ原価センタ(その他にも指図やWBSなど) |
4 | 「何によって」 | 人員比率 | トレースファクタ(統計キー数値や実際原価など) |
CO-配賦概要
周期の構造
周期は大きくヘッダとセグメントで構成されます。
ヘッダでは管理領域、バージョン、有効期間など全体設定を定義し、処理対象の基本条件を決めます。
一方、周期内のセグメントでは以下のような具体的な配分ルールを細かく定義します。
セグメントの代表的な設定内容
- 配賦原価要素や配分構造
- センダ(配賦元のCOオブジェクト)
- レシーバ(配賦先のCOオブジェクト)
- トレースファクタ(統計キー数値や計画原価など配分基準)
- レシーバ加重係数
1つの周期は複数のセグメントを持つことができ、部門別や費用カテゴリ別の柔軟な配分が可能です。
この構造により、周期は全体の枠組みを保ちながら、詳細なルールを段階的に制御できる仕組みになっています。
また、周期実行グループという概念も存在し、複数の周期をグループ化することができます。
実行時は下記の図のように、同一周期実行グループ内では周期内のセグメントがすべて実行され、その後に次の周期が実行されます。並列で周期を実行させたい場合はそれぞれの周期に対して、異なる周期実行グループを設定します。
周期実行グループの登録は、周期登録・周期変更・周期実行画面等のメニューバー(ジャンプ > 周期実行グループ
)からアクセスできます。
CO-周期実行の流れ
周期の種類
SAPでは、計画周期と実績周期で分かれており、トランザクションコードや画面も分かれています。
- 計画周期(Plan Cycle):予算策定時などに発生した計画データ(予算等)を処理するのに使う
- 実績周期(Actual Cycle):期中に発生した実績データを処理するのに使う
この記事では、原価センタの計画配賦にフォーカスして説明を進めていきます。
周期に関連するトランザクションコード
T-CODE(実績) | T-CODE(計画) | 内容説明 |
---|
KSU1 | KSU7 | 配賦の周期登録 |
KSU2 | KSU8 | 配賦の周期変更 |
KSU3 | KSU9 | 配賦の周期照会 |
KSU4 | KSUA | 配賦の周期削除 |
KSU5 | KSUB | 配賦の周期実行 |
KSU6 | KSUC | 配賦概要の照会 |
T-CODE(実績) | T-CODE(計画) | 内容説明 |
---|
KSV1 | KSV7 | 付替の周期登録 |
KSV2 | KSV8 | 付替の周期変更 |
KSV3 | KSV9 | 付替の周期照会 |
KSV4 | KSVA | 付替の周期削除 |
KSV5 | KSVB | 付替の周期実行 |
KSV6 | KSVC | 付替概要の照会 |
T-CODE(実績) | T-CODE(計画) | 内容説明 |
---|
KSW1 | KSW7 | 定期再転記の周期登録 |
KSW2 | KSW8 | 定期再転記の周期変更 |
KSW3 | KSW9 | 定期再転記の周期照会 |
KSW4 | KSWA | 定期再転記の周期削除 |
KSW5 | KSWB | 定期再転記の周期実行 |
KSW6 | KSWC | 定期再転記概要の照会 |
周期トランザクションコード
配賦の基本的な流れ
「配賦」、「付替」、「定期再転記」の各処理はすべて下記の流れで行います。
- 周期登録:配賦ルールの設定を行う
- 統計キー数値の入力:トレースファクタとして、統計キー数値を使用する場合に入力する
- 周期実行:登録された周期を実行する
- 実行結果:周期実行結果のレポートを照会する
周期の登録方法
今回は、原価センタの計画配賦に焦点を当てて、周期の登録から実行/実行結果の確認まで一連の流れに沿って解説していきます。以下は、例として設定していく原価センタ配賦の概要図です。
①周期登録
配賦処理を行うには、まず周期の登録が必要です。これは、どのセンダ(送信元)からどのレシーバ(受信先)へ、どのようなルールで配賦するかを定義する作業です。
周期の登録手順
- T-CODE:KSU1の周期登録 第一画面で管理会計/周期/開始日付を入力する
- ヘッダデータ画面でテキスト(周期の名称)を入力し、セグメントを追加する
- セグメントの画面で各種項目を設定する
- 保存する
周期のヘッダ登録
最初の登録画面では、下記の項目を入力します。
主な項目
- 管理領域:配布対象となる管理領域
- 周期:周期を識別するID
- 開始日付:周期の有効開始日
- コピー元:既に登録されている周期を指定することでその内容をコピーすることが可能
次の画面では、周期のヘッダ情報を登録します。実績配賦周期と計画配賦周期では表示される項目が少し異なります。主な項目は下記の通りです。
主な項目
- 有効終了日:周期の最終有効日(有効期間外で配賦処理をすることはできません)
- テキスト:周期の名称
- 反復:フラグを立てた場合、すべてのセンダの値がゼロになるまで配賦を行います
- 累計:フラグを立てた場合、会計期間1から指定期間までの累計額で配賦計算します(実績配賦のみ)
- 項目グループ:フラグを立てた場合、管理通貨以外の通貨でも配賦可能です
- バージョン:配賦の転記先となる計画バージョンを指定します(計画配賦のみ)
周期のヘッダ登録が終えたら、セグメント追加ボタンを押下し、セグメント登録画面へ遷移します。
CO-周期登録-ヘッダ
セグメント追加(ヘッダとセンダ/レシーバ)
セグメントのヘッダでは、以下の項目を設定します。
主な項目
- セグメント名:セグメントを識別するIDと名称
- ロックフラグ:フラグオンで処理対象外にできます
- 配賦原価要素:配賦用の原価要素を指定します(今回は二次原価要素で配賦しています)※付替、再転記の場合は指定なし
- 配分構造:配賦のための配分構造を指定します(配賦原価要素か配分構造のどちらかを入力)※付替、再転記の場合は指定なし
- センダ規則:
- 記帳済金額→センダの転記額による配賦
- 固定金額→センダ値に入力した金額による配賦
- 固定割合→センダ値に入力した金額とトレースファクタとレシーバに配分した結果を掛けた金額で配賦
- シェア:センダの値から、入力したパーセンテージで配賦します
- 実績値/計画値:実績値で配賦するか計画値で配賦するかを分類します
- レシーバ規則:
- 変動割合→指定された変動部分タイプ(実際/計画原価や実績/計画統計キー数値)用いた変動比率指定を行うことができます
- 固定金額→レシーバ/トレースファクタの金額に入力した金額をレシーバに配賦します
- 固定率→レシーバ/トレースファクタのパーセンテージに基づいて配賦します(合計が100%となるように入力)
- 固定割合→レシーバ/トレースファクタの入力値の割合に基づいて配賦します
センダ/レシーバタブでは、配賦元となるセンダの原価要素や原価センタなどと、配賦先となるレシーバの原価センタなどを指定します(グループで指定することも可能)。
今回の例では、原価センタ“10101801(共通部門)”に計上されている原価要素グループ“1800_CE(建物および維持費)”を配賦対象のセンダとしています。この原価要素グループには4つの原価要素が含まれています。
一方、レシーバには、原価センタグループ“1010130(オペレーション)”が指定されています。この原価センタグループは、3つの原価センタで構成されています。
CO-周期登録-セグメント1
セグメント追加(センダ値とトレースファクタ)
センダ値のタブは、基本的にセグメントヘッダで指定した情報が参照され、センダ規則によって画面が動的に変わります。センダ規則に固定金額もしくは固定割合を指定した場合は、ここで金額を設定できます。
レシーバトレースファクタのタブでは、主に変動部分タイプと選択基準を指定します。選択基準は、変動部分タイプにより、定義項目が動的に変化します。
下記例では、計画統計キー数値を選択していますので、選択基準で統計キー数値を設定しています。
代表的な、変動部分タイプは以下の通りです。
代表的な変動部分タイプ
- 実際原価:選択されたレシーバの実績値を配賦基準値として配賦します
- 計画原価:選択されたレシーバの計画値を配賦基準値として配賦します
- 実績統計キー数値:実績統計キー数値を使用して配賦します
- 計画統計キー数値:計画統計キー数値を使用して配賦します
CO-周期登録-セグメント2
セグメント追加(レシーバ加重係数)
レシーバ加重係数のタブは、配賦基準の割合を調整する場合に使用します。初期値は100%で、レシーバ毎に調整でき、0%にすることで特定のレシーバを配賦対象外にするという使い方もできます。
複数のセグメントを追加する場合は、更にセグメント追加ボタンを押下し、セグメント登録を繰り返します。最後は保存ボタンを押して、周期の登録が完了します。
CO-周期登録-セグメント3
②統計キー数値の入力
「①周期登録」のトレースファクタの設定で統計キー数値を選択した場合は、統計キー数値のマスタをメンテナンスする必要があります。
統計キー数値の概要や登録方法は以下の記事が参考になります。
あわせて読みたい
【SAP CO】統計キー数値について解説
この記事を読むメリット 統計キーの基本を理解できるようになります。 統計キー数値ってなんですか? 統計キー数値は、配賦や付替により使用される按分基準値じゃ!早速…
③周期実行
実際に、配賦を行うことをSAPでは「周期実行」と呼びます。
周期実行には、オンラインから周期を指定して実行する機能と予め実行する周期をバリアント登録してジョブツール(JP1、A-AUTO)等から実行する機能の2種類が存在します。
周期のオンライン実行手順
- 計画配賦の実行画面(T-CODE:KSUB)で各種パラメータをセットする
- 実行ボタンを押下する
- 実行結果が「基本一覧」として表示される
複数の周期を一度に実行したい場合は、実行したい順番に周期を入力します。
また、追加機能のスケジュールマネージャの実行表示から周期の実行履歴を照会することができます。
実行後、取り消し行う場合は メニュー>配賦>取消
から実行できます。
CO-周期実行画面
選択画面で、処理オプションの詳細一覧にチェックを入れると、実行後に下記の画面が表示され、配賦の処理結果が確認できます。更に、一覧選択で“センダおよびレシーバ”や“仕訳帳”にもチェックを入れると、他種類の一覧も出力可能です。
CO-周期実行結果画面
もっとくわしく💡端数調整について
SAPの配賦ロジックでは、配分比率計算や通貨換算により端数が発生する場合があります。
SAPはすべてのレシーバに金額を割り当てた後、1円や1セントのような端数が残った場合、最後のレシーバに端数調整を行う仕様です。つまり、「配賦サイクルのレシーバ一覧を、SAPが内部的にコード順(英数字の昇順)で並べたときの最後のレシーバ(=最も大きいIDのレシーバ)」に端数が調整されます。
仮にそのレシーバの配賦金額がゼロだった場合でも、そのレシーバに対して端数金額が計上されます。
④実行結果
周期実行後に実行結果が表示されますが、それ以外にも配賦後の数値は様々なレポートから閲覧することができます。今回は、一例として、T-CODE:S_ALR_87013611(原価センタ比較レポート;実績計画差異レポート)を使用しています。
下記の例では、もともとセンダ側の借方にあった配賦対象の計画金額が合算され、配賦勘定で貸方に計上されています。一方、レシーバ側は、計画統計キー数値(各原価センタの面積比=3:2:1)を基準に按分された金額が各原価センタに配賦されていることが分かります。
CO-原価センタレポート
周期の関連テーブル
テーブルID | テーブル内容 |
---|
T811C | 配賦サイクル(周期)のヘッダ情報を管理するテーブル 周期名、バージョン、会社コードなど基本属性が格納されます |
T811D | 配賦周期がいつ、どの期間・バージョンで実行されたかの履歴を保持するテーブル |
T811F | 配賦周期で使用される配賦基準や統計キー数値など、按分要素の定義を保持するテーブル |
T811S | 配賦周期内のセグメント単位設定(送信元・受信先・配分ルールなど)を格納するテーブル |
T811K | 配賦実行のキーとなる明細レベルの設定情報(受信先の具体的な割当など)を管理するテーブル |
T811PT | 複数の配賦周期をまとめて一括実行するためのグループ情報を保持するテーブル |
周期関連テーブル
もっと詳しく知りたい方は、下記記事が参考になるぞい!
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【SAP CO】テーブル関連図(配賦周期)
【】 以下は配賦周期(Assessment Cycle)関連のテーブル関連図じゃ! 周期関連は、たくさんのテーブルがあるんですね?? 周期関連テーブルの中でも上記はあくまで一部ぞ…
まとめ
SAPの管理会計において「配賦」は、コストの透明性と整合性を担保する重要な処理です。また、SAPの管理会計の周期(Cycle)は、一次/二次原価を体系的に配賦するためのSAP独自の仕組みです。この周期を活用することで、計画と実績ベースの費用振替を定期的かつ自動的に実施することが可能になります。この記事では、周期処理の中でも特に配賦にフォーカスし、基本的な考え方から設定方法、実行、テーブル構造に至るまで詳細に解説しました。実務で配賦処理に携わる方にとって、本記事が配賦および周期の理解となれば幸いです。