この記事を読むメリット
SAPで発生する「不完全伝票」の仕組みを基礎から理解できる
実務上のトラブルや伝票エラーの対処ができるようになる
不完全伝票の判定ロジックやカスタマイズ設定の調整方法がわかる
博士!伝票を保存しようとすると不完全伝票の警告が出ます どうやったら解消しますか?
SAPのSD(販売管理)モジュールにおいて「不完全伝票」は、受注処理や請求処理を進めるうえで見過ごせない存在です。特定の必須情報が未入力のまま伝票が保存された場合、その伝票は「不完全」と判定され、後続処理でエラーや確認作業が発生するリスクがあります。
本記事では、不完全伝票の仕組みや設定方法、実務でのチェック・対処のポイントまでを詳しく解説します。
この記事のポイント
不完全伝票とは?
SAP SDモジュールで「受注伝票(VA01)」や「出荷伝票(VL01N)」などの販売プロセスを扱っていると、時折「不完全伝票(Incomplete Sales Document) 」という用語に直面します。これは、伝票内に必要なデータ項目が入力されておらず、処理を完結できない状態にある伝票 のことです。
伝票は登録されていても、請求、出荷、または転記といった後続プロセスができないことがあるため、実務上大きな影響を与えます。逆に言うと、必要な情報が揃ったのちに後続に連携することで、後続の伝票フローや実作業を円滑に進めることに繋がります 。
具体的なシステム挙動例
イメージが湧くように、下の画像を使って説明していくぞい!
今回は、例として受注伝票をつかって説明していきます。
まず、情報が不足している場合、「どの項目にインプットが足りていない」と警告がでます。
どの項目が不足しているときに警告を出すのか・順番についてはカスタマイズで定義できます。
警告ですので、Enterを押すと次に進めます。
この状態で保存ボタンを押すとポップアップが表示されます。
ポップアップによりユーザーに最終確認を促せます。
この例では不完全伝票のまま保存することも可能になっています。
編集ボタンから不足している具体的な項目を確認することができます。
不完全ログの各項目をダブルクリックするとその項目の入力画面に遷移します。
SD 不完全伝票の機能概要
詳細は、後続のカスタマイズで説明しますが、今回の例の場合、保存はできるものの出荷伝票や請求伝票には進むことはできません。その為、ユーザーは不完全ログを確認して、必須項目を入力し不完全伝票を解消していく必要があります。
不完全伝票を解消し必要な情報が揃ったのちに後続に連携することで、後続の伝票フローや実作業が円滑に進むようになることが目的の1つです。
不完全伝票が発生する主な理由
SAPでは「伝票が不完全であるかどうか」を判断するための不完全性チェックロジック が存在します。このロジックは、以下のような情報が不足している場合に「不完全」とみなします。
得意先の支払条件が未入力
仕入先情報が不足
出荷ポイントや重量などの輸送条件が不足
価格条件が未決定
インコタームズなどの輸出情報が不足
このチェック内容は、伝票タイプおよび不完全グループ(ヘッダ・明細など)ごとに異なるルール が設定されています。
この何をもってして不完全とみなすかは、カスタマイズで定義できるぞい!
不完全伝票のカスタマイズ
カスタマイズでは、下記のパスにおいて、主に3つの設定を行います。
カスタマイズ
販売管理 > 基本機能 > 不完全明細ログ (Incompleteness procedure)
定義:不完全決定表
割当:不完全決定表
定義:ステータスグループ
1)定義:不完全決定表
不完全決定表の定義では、まず不完全グループを選択します。 不完全グループとは、不完全か否かの判断をする単位をグルーピング化したもので、下記画像のA~Hが用意されています。
グループを選択し、左のダイアログ構造で決定表をダブルクリックすると、そのグループで定義されている決定表の一覧を参照できます。さらに、決定表を選択し、項目をダブルクリックするとその定義の詳細を確認することができます。
定義されている内容は、主に以下の3つです。
どの項目が不足しているときに不完全とするか
その項目が不足しているときのシステム挙動をどうするか(ステータスGrp.定義を参照)
その項目が不足しているときに警告をだすか・またその順番
SD 不完全決定表の定義
2)割当:不完全決定表
「不完全決定表」を定義した後は、それを実際の伝票タイプや明細カテゴリなどに割り当てる必要があります。
この割当作業によって、システムは「どの伝票(明細カテゴリ等)で、どの不完全チェックを使うか」を判断できるようになります。
不完全のチェックボックスは、不完全伝票の状態で保存できないようにするかを制御することができます。今回の例ではチェックをつけていない為、不完全のままでも保存できる設定です。
SD 不完全決定表の割当
3)定義:ステータスグループ
不完全伝票で重要なのが、「処理可能かどうか」の判定ルールです。これを制御するのが「ステータスグループ」の設定です。
ステータスグループは、不完全チェックに引っかかった場合に「出荷できるか」「請求できるか」などを制御します。
例をいくつか下記に記載します。 是非、上の決定表の定義と下記のステータスグループの定義を見比べてください。
項目 ステータス システム制御 得意先参照 01 出荷以降も問題なく進める 支払条件 03 出荷処理はできるが、請求や在庫移動ができない インコタームズ 04 出荷も請求もできない
SD 不完全伝票のステータス定義
不完全伝票の確認方法
不完全伝票の確認方法には大きく3つの方法があります。
個別伝票から確認する方法
受注伝票の照会や変更画面から、編集 > 不完全ログ
から確認できます。 下記は受注伝票の画面ですが、他の伝票でも同様の手順で確認できます。
SD 不完全ログの確認方法
レポートから一括で確認する方法
T-CODE:V.00 を使用し、任意の検索条件で一覧を照会できます。 照会後の結果から直接伝票に遷移することも可能です。また、どの処理が実行できない状況なのかも確認することができます。
SAP SD 不完全伝票のレポート:V.00
テーブルから一括で確認する方法
T-CODE:SE16Nを使用し、テーブル:VBUV から不完全伝票の一覧を参照できます。
項目は多くはない為、選択して絞り込みをかけたい場合はT-CODE:V.00がおススメですが、もれなく確認したい場合は、このテーブル参照が有効です。
SD 不完全伝票のテーブル:VBUV
まとめ
SAP SDの不完全伝票は、販売プロセスを健全に保つための重要なチェック機構です。設定によって伝票の登録を厳格に管理し、後続プロセスの品質を担保することができます。
不完全伝票の原因を素早く把握し、適切に修正することで、業務効率とデータ品質の向上に繋がります。カスタマイズやマスタメンテナンス時にもこの仕組みを理解しておくことで、トラブルの予防にも大きく寄与します。