この記事を読むメリット
- SAPで扱う在庫転送(1Step転送、2Step転送)に関する基本が理解することができます。
- SAPにおける転送時の操作イメージについて理解することができます。
SAPの在庫管理業務において、在庫移動は日常的に発生する重要なプロセスです。その中でも「1Step転送(One-Step Transfer)」「2Step転送(Two-Step Transfer)」は、業務内容や運用方法に応じて適切に使い分ける必要があります。
本記事では二つの転送の特徴や違い、そして実機を用いた操作方法も解説していきます!
この記事のポイント
在庫転送とは?
在庫転送とは、その名の通り在庫をプラントや保管場所の間で在庫を移動する業務となります。
モノを送るだけと言っても大きく分けて2パターンあるのじゃよ~!
SAPにおける在庫転送のパターンについて
SAPでは在庫転送オーダーの作成にあたって、大きく1 Step在庫転送と2 Step在庫転送に分けることができます。1 Stepと2 Stepの違いについては出庫と入庫が同時に行われるか否かという判断軸で理解するとわかりやすいです。
1 Step在庫転送
1Step在庫転送は、在庫の出庫と入庫を一度の処理で同時に行う方法となります。
在庫転送時のステータスを管理しなくて良い場合に用います。
メリット
- データエントリが一度で完了するため作業負担が軽減される
- 実在庫が即座に正しい状態となるため、リアルタイムでの在庫把握が可能
- プロセスが単純なため、エラー発生リスクが低い
デメリット
- 移動中の在庫を管理できないため、移送中に発生する問題(例:紛失、破損)を記録できない
利用シナリオ例
- 同一プラント内での倉庫間移動(例:ストレージロケーションAからBへの移動)
- 緊急対応時、製造部門や出荷部門から迅速な在庫補充を求められる場合
- 運搬距離が非常に短く、物理的に即時に移動が完了するケース(例:隣接倉庫間)
2 Step在庫転送
2Step在庫転送オーダーは、出庫と入庫を別々の処理として行う方法です。
こちらは出庫確認をした後に在庫のステータスが移動中のステータス(転送中在庫)になることが特徴として挙げられます。
メリット
- 移動中在庫として認識できるため、移送中の資産管理が可能
- 輸送中のトラブル発生時にも在庫情報を正確に把握できる
- 出庫と入庫のタイムラグを許容できる運用が可能
デメリット
- 出庫・入庫の2回処理が必要となるため、オペレーションが煩雑になる
- 入庫忘れやタイミングミスにより在庫情報が不整合になるリスク
利用シナリオ例
- 複数プラント間の在庫移動(例:日本工場から海外工場へ)
- 移動に時間がかかる場合(例:トラック輸送、海上輸送)
- 在庫移動の責任分担を明確にしたい場合(例:出庫担当と入庫担当が異なる)
在庫転送パターン分け
在庫転送について1Step・2Step、在庫転送オーダーの起票有無、請求の有無などでさらに9つのパターンに分けることができます。
No | プラント間転送 or 保管場所間転送 | 1Step転送 or 2Step転送 | 在庫転送オーダー 起票有無 | 出荷指示 有無 | 請求 有無 | 手順概要 (移動タイプや伝票タイプなど) |
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1 | 保管場所間転送 | 1Step | × | × | × | ①MIGO(移動タイプ:311) |
2 | 保管場所間転送 | 2Step | × | × | × | ①MIGO(移動タイプ:313) ②MIGO(移動タイプ:315) |
3 | プラント間転送 | 1Step | × | × | × | ①MIGO(移動タイプ:301) |
4 | プラント間転送 | 1Step | 〇 | 〇 | × | ①ME21N(伝票タイプ:UB/明細カテゴリ:U) ②VL10系+VL02N ③MIGO(移動タイプ:647) |
5 | プラント間転送 | 1Step | 〇 | 〇 | 〇 | ①ME21N(伝票タイプ:UB/明細カテゴリ:空白) ②VL10系+VL02N ③MIGO(移動タイプ:645) ④VF01 |
6 | プラント間転送 | 2Step | × | × | × | ①MIGO(移動タイプ:303) ②MIGO(移動タイプ:305) |
7 | プラント間転送 | 2Step | 〇 | × | × | ①ME21N(伝票タイプ:UB/明細カテゴリ:U) ②MIGO(移動タイプ:351) ③MIGO(移動タイプ:101) |
8 | プラント間転送 | 2Step | 〇 | 〇 | × | ①ME21N(伝票タイプ:UB/明細カテゴリ:U) ②VL10系+VL02N ③MIGO(移動タイプ:641) ④MIGO(移動タイプ:101) |
9 | プラント間転送 | 2Step | 〇 | 〇 | 〇 | ①ME21N(伝票タイプ:UB/明細カテゴリ:空白) ②VL10系+VL02N ③MIGO(移動タイプ:643) ④VF01 ⑤MIGO(移動タイプ:101) ⑥MIRO |
在庫転送パターン分け
VL10系のトランザクションコードとしてはVL10BやVL10Hなどがあります。受注伝票や発注伝票を参照して出荷伝票をまとめて作成してくれる機能です。
機能の違いはSAP Help Portalを参照。
在庫転送の実機解説
パターン分けした操作手順について、実機画面を使用しながら代表的な在庫移動プロセスについて実際に在庫移動をしてみます。
ここではVL10系のトランザクションコードは例としてVL10Bを用いていきます。
1STEP 在庫転送
では、実際に1STEPでの在庫転送について実機操作とともに確認していきましょう。
1 Step保管場所間在庫転送(T-CODE:MIGO)
最もシンプルな形の同一プラント間における、保管場所間の在庫転送になります。
T-CODE:MIGOから実施します。
主な手順
- 入出庫伝票登録ヘッダ
入出庫伝票登録にて”振替転記・その他”で移動タイプ311(保管場所間転送)を選択します。
- 入出庫伝票登録明細(T-CODE: MIGO)
左側に転送元の品目および転送元プラント・保管場所を、右側に転送先の同一プラント内の保管場所を入力します。
- 入出庫伝票登録明細数量タブ
数量タブにて、転送する数量を入力し保存します。
上の例ではプラント”JZA1″の保管場所”3000″から”JZA1″の保管場所”2000″に在庫数量が移ったことを確認することができます。
1 Stepプラント間在庫転送(T-CODE:MIGO)
こちらもシンプルな方法で、別プラント間における在庫転送になります。
保管場所間転送同様、T-CODE:MIGOから実施します。
主な手順
- 入出庫伝票登録ヘッダ
入出庫伝票登録にて”振替転記・その他”で移動タイプ301(プラント間転送)を選択します。
- 入出庫伝票登録明細
左側に転送元の品目および転送元プラント・保管場所を、右側に転送先のプラント・保管場所を入力します。
- 入出庫伝票登録明細数量タブ
数量タブにて、転送する数量を入力し保存します。
上記の例では、プラント”JZA1″/保管場所”3000″からプラント”JZA2″/保管場所”3000″に在庫数量が移ったことを確認することができます。
1Step保管場所間在庫転送(在庫転送オーダー有/出荷指示有)
続いて、在庫転送オーダーを起票し、倉庫に対して出荷指示も行うパターンについて解説します。
まず、T-CODE:ME21Nから在庫転送オーダーを起票し(下図①)、その後T-CODE:VL10Bにて購買発注参照で出荷伝票を作成します(下図②)。
1Step在庫転送を行う場合は、移動タイプにも注目が必要です。
T-CODE:VL02Lで作成された出荷伝票を見てみましょう。今回は1stepで在庫転送を行うので移動タイプが647(出庫確認 1step)になっていることを確認し出庫確認をします(下図③)。
T-CODE:ME23Nで在庫転送オーダーを確認し出庫と入庫が行われていることが確認できます(下図④)。
作成された入出庫伝票をT-CODE:MIGOで確認することができます(下図⑤)。
主な手順
- 在庫転送オーダー起票(T-CODE: ME21N)
購買発注伝票登録と同じ画面から、伝票タイプ”UB”を選択し、供給元のプラント情報および入庫するプラント/保管場所等の情報を入力します。
- 出荷伝票登録(発注参照)(T-CODE: VL10B)
出荷ポイントや参照対象の購買発注伝票番号を入力し、実行します。対象の発注伝票番号が表示されたらチェックボックスを押して出荷伝票を作成します。
※通常、こちらのプログラムをJOB化して、出荷伝票の作成については定期的に行われる運用も多いです。
- 出庫確認(T-CODE:VL02N)
作成された出荷伝票を確認し、必要に応じてピッキング作業などをし出庫確認します。
なお、今回は1STEPでの在庫転送のため、移動タイプが647になっていることを確認します。
- 入出庫伝票の確認(T-CODE:ME23N)
在庫転送オーダーの伝票上で、後続の入出庫伝票を確認することができます。
出庫確認後に作成された入出庫伝票は1伝票で入出庫が行われたことを確認することができます。
※そのため、移動時には積送中の在庫ステータスにはなりません
- 入出庫伝票の確認(T-CODE: MIGO)
実際に作成された入出庫伝票を確認し、プラント間で在庫移動されたことを確認できます。
また、1ステップとするか2ステップとするかについてはカスタマイズにて設定可能となっています。
補足
在庫転送オーダー作成時に1STEPとするか、2STEPとするかの設定
対象のプラント間における在庫移動を1STEPとするか2STEPとするかの設定は、プラント単位で設定することができます。(T-CODE:S_ER9_52001856)
下記のようにプラント間での組み合わせで使用する在庫転送オーダーの伝票タイプの初期提案および、1STEPか2STEPかの組み合わせを設定することができます。
1STEP在庫転送についての説明は以上になります。
基本的にはMIGOを利用して、移動するパターンでシンプルな操作が多いのでFiori機能で代替されずに今も使用されている機能の1つとなります。
2STEP 在庫転送
では、実際に2STEPでの在庫転送について実機操作とともに確認していきましょう。
2Step在庫転送では、在庫の移動中のステータスが転送中の在庫ステータスに代わります。
2 Stepプラント間在庫転送(T-CODE:MIGO)
2Stepのプラント間の在庫転送は1Stepとは異なり、在庫が転送中の在庫ステータスとなることが特徴的です。今回はT-CODE:MIGOで行う2stepプラント間転送を紹介します。
T-CODE:MIGOで移動タイプ:303を指定し出庫します(下図①)。
T-CODE:MMBEで在庫を確認すると転送中であることが確認できます(下図②)。
続いて、転送中のプラント在庫をT-CODE:MIGOにて入庫します(下図③)。移動タイプは305を指定します。
T-CODE:MMBEで在庫を確認すると入庫され在庫転送が完了していることが確認できます(下図④)。
主な手順
- 入出庫伝票登録(出庫)(T-CODE: MIGO)
入出庫伝票登録にて”振替転記・その他”で移動タイプ303(プラント転送出庫)を選択します。(保管場所間転送の場合は313を選択します。)
- 在庫状況照会(T-CODE:MMBE)
対象の品目の在庫状況照会を行い、転送先のプラント”JZA2″に対して、プラント間転送中という形で在庫が2個移動していることを確認できます。(保管場所の場合は保管場所転送中というステータスになります。)
- 入出庫伝票登録(入庫)(T-CODE: MIGO)
転送先のプラントコードにて入庫を行います。入力する項目は入庫数量と入庫先の保管場所コードを指定します。
- 在庫状況照会(T-CODE:MMBE)
対象の品目の在庫状況照会を行います。転送先のプラント”JZA2″のプラント間転送中という形の在庫が利用可能在庫として、2個移動していることを確認できます。
2Step保管場所間在庫転送(在庫転送オーダー有/出荷指示有)
こちらのケースが通常、在庫転送オーダーとして使用されるケースの多いプロセスとなります。
まずは、在庫転送オーダーと発注伝票参照で購買発注伝票を作成します。
T-CODE:ME21Nにて在庫転送オーダーを作成します(下図①)。その際に明細カテゴリはUを指定します。
作成した在庫転送オーダーを参照し、T-CODE:VL10Bにて出荷伝票を作成します(下図②)。
次にT-CODE:VL02Nにて作成した出荷伝票を表示し移動タイプ641となっていることを確認し出庫確認を行います(下図③)。
T-CODE:ME23Nにて在庫転送オーダーを確認すると出庫されていることが確認できます(下図④)。
最後にT-CODE:MIGOにて在庫転送オーダーを参照して入庫を行います(下図⑤)。
T-CODE:ME23Nにて在庫転送オーダーを確認すると在庫が入庫され、在庫転送が完了していることが確認できます(下図⑥)。
主な手順
- 在庫転送オーダー起票(T-CODE: ME21N)
購買発注伝票登録と同じ画面から、伝票タイプ”UB”を選択し、供給元のプラント情報および入庫するプラント/保管場所等の情報を入力します。
- 出荷伝票登録(発注参照)(T-CODE: VL10B)
1stepの時と同様に、出荷ポイントや参照対象の購買発注伝票番号を入力し、実行します。(対象の発注伝票番号が表示されたらチェックボックスを押して出荷伝票を作成します。)
- 出庫確認(T-CODE:VL02N)
作成された出荷伝票を確認し、必要に応じてピッキング作業などをし出庫確認します。
なお、今回は2STEPでの在庫転送のため、移動タイプが641になっていることを確認します。
- 入出庫伝票の確認
在庫転送オーダーの伝票上で、後続の入出庫伝票を確認することができます。
出庫確認後に作成された入出庫伝票は1伝票となっていることを確認することができます。
- 入出庫伝票登録(T-CODE: MIGO)
①で作成した在庫転送オーダーの番号をもとに、購買発注入庫(移動タイプ101)を行います。こちらをすることで転送先のプラントで入庫が完了します。
- 入出庫伝票の確認(T-CODE: MIGO)
実際に作成された入出庫伝票を確認し、プラント間で在庫移動されたことを確認できます。
さいごに
本記事では在庫転送オーダーについて1step、2stepそれぞれの操作イメージとともに在庫の移動方法の違いについて確認してきました。
インターフェースなどの要件でMIGOでは出荷指示データ連携等が行われないこともあり、在庫転送オーダーを作成するケースなど在庫転送オーダーは在庫管理における非常に重要な論点となります。
本記事で基本的な在庫移動について少しでも理解が深まれば幸いです。