この記事を読むメリット
- SAP移送における「カスタマイジング依頼」と「ワークベンチ依頼」の違いと、それぞれの適用範囲が理解できます。
SAPでは、プログラム開発や設定変更を安全かつ確実に本番環境へ反映するために「移送(Transport)」という仕組みを活用します。移送には「カスタマイジング依頼」と「ワークベンチ依頼」の2種類があり、それぞれ対象とするオブジェクトや影響範囲が異なります。
この記事ではSAPシステムの構成と移送の仕組みを踏まえながら、この2つの依頼の違いを解説します。
この記事のポイント
移送とは
SAPにおける移送依頼(Transport Request)は、開発・設定内容を「開発 → 検証 → 本番」の各環境へ段階的に反映させるために使用されます。これにより、本番環境での障害リスクを抑えながら、安全に変更を展開できます。
移送には大きく分けて二つのタイプの依頼があります。
- カスタマイジング依頼 (Customizing Request)
- ワークベンチ依頼 (Workbench Request)
これらは、目的や対象オブジェクト、影響範囲に大きな違いがあります。
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カスタマイジング依頼、ワークベンチ依頼について説明する前に、クライアント依存/非依存について説明するぞい!
クライアント依存/非依存
SAPには「クライアント」という概念があり、同一環境内で複数の用途別クライアントを扱うことができます。移送対象オブジェクトはクライアントによって「依存」「非依存」に分類されます。
- クライアント依存:
SPROなど設定内容が該当し、特定クライアントのみに影響
- クライアント非依存:
プログラムやテーブル定義など、全クライアントに影響
この違いを理解せずに運用すると、思わぬ障害や意図しない環境への影響を招くリスクがあります。
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クライアント依存
- クライアントごとに異なるデータや設定を保持します。
例)「会社コードの設定」「ユーザーごとの権限設定」「販売条件」など
- 主にカスタマイジング依頼で扱う設定項目がこれに該当します。
クライアント非依存
- クライアントに関係なく、SAPシステム全体で共通の設定・オブジェクトです。
例)ABAPプログラムやテーブル定義、汎用モジュールなど。
- 主にワークベンチ依頼で扱われます。
カスタマイズにおいて、クライアント依存なのかクライアント非依存なのかを見分ける方法は以下の記事で解説しているぞい!
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移送の分類
カスタマイジング依頼(Customizing Request)
一方、カスタマイジング依頼は、SPROなどを通じて行う業務設定の変更(設定値の変更)に関わる依頼です。対象は「クライアント依存オブジェクト」で、特定のクライアントにのみ影響します。
| 項目 | 内容 |
|---|
| 主な対象 | カスタマイズ(一部クライアント依存) |
クライアント 依存/非依存 | クライアント依存オブジェクトに対する変更で、特定クライアントにのみ影響。 |
| 特徴 | カスタマイジング作業により生成される移送依頼 他クライアントへの反映が必要な場合はT-CODE:SCC1によるコピーが必要 |
カスタマイジング依頼
ワークベンチ依頼(Workbench Request)
ワークベンチ依頼は、SAPで開発された技術オブジェクトを管理・移送するための依頼種別です。対象はプログラムやテーブル定義などの「開発オブジェクト」であり、システム全体(全クライアント)に影響を与えます。
| 項目 | 内容 |
|---|
| 主な対象 | テーブル・ドメイン・データエレメント・データ構造・ビューなど(T-CODE:SE11から設定できるもの) ABAPを用いたプログラム 一部のカスタマイジング(たいていはクライアント依存ですが、一部クライアント非依存) |
クライアント 依存/非依存 | クライアント非依存オブジェクトに対する変更で、全クライアントに影響。 |
| 特徴 | ABAP Workbenchでの開発作業で自動的に生成される移送依頼 システム全体に影響するため、適切な検証とリスク管理が必要 |
ワークベンチ依頼
実際の移送手順(基本フロー)
- 移送依頼の作成
開発環境でオブジェクトを変更すると、移送依頼のポップアップが表示され、内容に応じて自動的に「ワークベンチ依頼」または「カスタマイジング依頼」が作成されます。
- リリース
T-CODE:SE01(移送オーガナイザ)
移送依頼を確認・内容を最終確認し、リリース実行。
リリース後は移送依頼の変更は不可となり、リリース時点の状態でオブジェクトがエクスポートされます。
- インポート
T-CODE:STMS(移送管理システム)
検証環境または本番環境にて、対象移送依頼をインポート。インポート完了後、オブジェクトが反映されます。
クライアント間の移送(カスタマイジング依頼時)
カスタマイジング依頼のようなクライアント依存設定は、他のクライアントへ反映させたい場合、T-CODE:SCC1を使って手動でコピーが必要です。誤って不要なクライアントへ反映しないよう注意が必要です。
- SCC1は依頼単位で設定値をコピーする処理であり、STMSによる移送とは別物です。意図せぬ設定の上書きに注意が必要です。
まとめ
SAPシステムにおける移送は、正確なシステム構成とオブジェクトの依存性を理解した上で、適切な依頼種別を選択・管理することが非常に重要です。移送ミスは業務停止など大きな影響を及ぼすため、必ずルールと手順を守って運用しましょう。